釈迦に説法

幸せについて考えてみる。

留学生活その2 エルビスとの出会い。

 なんやかんやで大学に着いた。運転手は僕の渡した中国元を青いペンライトみたいなのを当てて偽札かどうか確認していた。後に解った事だが、この時少しぼったくられていたらしい。初めて中国に来た事がばれると、誰もが受ける洗礼である。ちなみに、帰国直前に受付で係員ともめていた日本人学生の手助けに行くと、彼は運転手から偽札を渡されており、これは受け取れないと言われていた。それで中国を嫌いになられても嫌なので、僕はあえてその偽札を本物と替えてあげて、記念に偽札をもらい、「ようこそ中国へ。」と彼を励ました事がある。良い思い出だ。僕が大学の受付に行き、手続きをしていると、今は一番寮費の高い二人部屋しか空いていないと言われ、大学の入り口にあるちょっと高そうな寮の言われた部屋に行った。恐る恐るドアを開けると、部屋には誰も居なかったが、片方の机には明らかに何者かによって使用されている跡があった。何語か見ても解らない文字が書かれた本を確認し、最悪英語で何とかなるかと荷物を開けて、持って来た水を飲んで、ベッドに横になった。疲れていたが、何とかここまで辿り着いた。安心の方が大きかった。時間は夜八時を過ぎていたが、相方さんは帰って来なかったので、これからの予定を確認していた。授業は確か三日後ぐらいからになっていて、とりあえず明日はご飯食べる場所を探そうと思った。大学の地図を見ていると、背の小さなカーリーヘアーの男が部屋に入って来た。「ニーハオ。」と言われて握手を交わし、韓国人かと聞かれたので、日本人だと答えた。彼はイタリア人でエルビスと名乗った。歳は30前。若い格好をしていたが、おっさんに見えなくもなかった。僕が留学生活の中で初めて出来た知り合いだ。向こうは何やら中国語らしき言葉で色々聞いてきたが、僕があまり解ってないのをみて、途中からお互いに片言の英語でコミュ二ケーションした。自分は半年ここに居て、相方がいてもいなくても寮費は同じなので、しばらく広い部屋で快適だった事、まだしばらくここにいるからよろしくと言ってくれた。その後漢字について聞かれ、今度授業で習うんだと言っていた。なかなか勉強熱心なのかもと思っていたら、遊び人っぽいお姉ちゃんが二人部屋に入って来た。僕があっけに取られていると、これからディスコに行くから一緒に来るかい?と聞かれた。行くわけないだろうと言う所だった。今日は休むよ、と言うと、じゃあ先に休んでてと言い残して出て行った。一人になってこれからちゃんと中国語勉強しないと、会話が大変だなと痛感していた。なんか相方は遊び人っぽいけど、まあそれは気にしなくて良いと言い聞かせていた。エルビスは日が変わって帰って来た。すっかり出来上がった雰囲気のお姉さんは、僕が寝ているベッドに腰かけて、エルビスともう1人部屋じゃなくなったねみたいな会話をしていた。こいつは日本人らしいという様な会話を、僕は寝たふりして聞いていた。やれやれ、人見知りの自分にはしんどいスタートだなと帰って行くお姉さんを気配で感じて寝た。次の日は朝から色々探索して、夜にエルビスと話した。自分は日本があまり好きではなく、外国に憧れて留学しに来た旨を告げると、初めてエルビスは真剣な顔をして、「何故自分の国が嫌いなんだ?」と聞いてきた。日本人の考え方が好きではないと言うと、「じゃあ自分の事も嫌いなのかい?」と言われ、そうかもと答えると、彼はやれやれといった顔をして、「自分はベニスと言う都市から来た。世界一美しい都市だが、いつか水の下に沈んでしまうかもしれない。それまでに遊びにおいで。」と言ってくれた。その後、日本の北斗の拳の漫画が好きだと言って、日本の女性はきれいだねとか、彼なりに僕を励ましてくれていた様に見えた。この時僕は気付いていた。自分の国は世界一で、生まれた所が大好きだと言うエルビスが、格好良く見えた事。遊び人だと思っていた彼の方が、自分よりはるかに立派で魅力がある様に感じた。この事をきっかけに、僕の考え方は変わって行く。ふてくされていた子供の考えが、消えて行こうとしていた。そうか、僕は故郷や母国への愛を見失っていたのかもしれない。日本人の良さを忘れているのかもしれない。取り戻さなくては世界で通用しないかもしれないなと、「北斗の拳ねぇ」と独り言を呟いていた。その後、食事に出て行ったエルビスを呼びにイタリアのお姉さんが部屋に来たから、少し話をした。エルビスは女好きである事。それでも彼は優しいという事。きれいなお姉さんに「あなたも女の子には優しくしてあげてね。」と言われ、少し照れた。ここでも気付いたのだが、日本人と違って、彼女たちは人の良い所を見ようとする。僕らはすぐ人のダメな所を見つけようとするのに。何かが違う。おそらく自分の考えは間違っている。好きな事、良い事を楽しそうに語る彼らとの出会いによって、僕の中の考えが、少しずつ、本当に少しずつではあるが、小さな島国のものから、世界の基準へと変わろうとしていた。

 

   ♪ 愛をとりもどせ!!  /  クリスタルキング

 

YouはShock 愛で空が落ちてくる   You はShock 俺の胸に落ちてくる

熱い心 クサリでつないでも 今は無駄だよ 邪魔する奴は指先一つでダウンさ

YouはShock 愛で鼓動早くなる YouはShock 俺の鼓動 早くなる

お前求め さまよう心今 熱く燃えてる 全て溶かし無残に飛び散るはずさ

俺との愛を守るため お前は旅立ち 明日を見失った

微笑み忘れた顔など 見たくはないさ 愛をとりもどせ

 

YouはShock 愛で闇を切り裂いて YouはShock 俺の闇を切り裂いて

誰も二人の安らぎ 壊すこと 出来はしないさ 引きつけ合う絆は離れない 二度と

俺との愛を守るため お前は旅立ち 明日を見失った

微笑み忘れた顔など 見たくはないさ 愛をとりもどせ