釈迦に説法

幸せについて考えてみる。

留学生活その5 青空。

 授業で自分の故郷を紹介するという時間があり、皆がそれぞれ自分の故郷の景色を描き始めた時に驚いた事がある。僕は日本人だから当然緑の山の絵を描いていたのだが、茶色の山を描いている生徒がいたのだ。僕は山は緑だと決めつけていたが、世界はそうではないらしい。地図で見ると解るのだが、キリスト教が信仰された地域では砂漠になった場所が多い。イスラム教も同じ。ラスベガスやサハラなんかはその典型で、キリスト教は人間第一主義といって、人間が生きる為なら自然の木や森を切る事は仕方のない事らしい。住居を確保するために開拓するのは当然という事か。一方で日本や東南アジアでは仏教が主で、自然共存主義という。木や土にも神が宿るとした考え方だ。自然を敬い、人間の都合だけではそれらを無視できない。時には人間の方が遠慮するといった考え方だ。だから地図上では緑の木々が多く残り、結果山は緑になるという事。おかげで農業が出来る。自然の恵みを多く受ける事になる。それが長い歴史を経て、僕達の描く山の色に影響しているのは面白い発見だった。先住民であるインディアンを迫害して追い出す人がいれば、インドネシアの様に国立公園から2メートルにもなるニシキヘビを駆除しない国もある。子供の安全を考えたら駆除した方が良さそうだが、現地で暮らす子達に聞くと、蛇の方が先に住んでいたのだから駆除は出来ないという理屈らしい。いかにもアジアらしい考え方だ。日本人としては非常に理解できる。授業では本当に様々な発見があって楽しかった。

 ある時校庭を友達と歩いていたら、黒人が炎天下の中日傘を差して歩いていて、知り合いの日本人によると、あれは彼のクラスのフランス人で、ルルという子らしかった。僕は思わず、「もう日焼けする所ないじゃん。黒人なんだから。僕たちは格好良くなりたくて日焼けする事はあるけど、君にはもう必要ないだろう?」と冗談を言った。彼は足を止め、「君は黒人が格好良いとでも思っているのか?」と聞いて来たので、「黒人の身体能力は半端ないよ。僕らの国では日焼けしてないとモヤシみたいだと言われ、どちらかと言うと日焼けしてた方が精悍なイメージがあるかな。」と思った事を言った。すると彼は何故かそれが嬉しかったらしく、名刺を出して、友達になろうと言って来た。名刺には映画監督と書いてあった。「僕はわざと日傘を差して、世界の人の反応を試しているんだ。ドキュメンタリーを撮りたくてね。でも多くの人は黒人が日傘を差していると誰も話しかけて来なかったよ。差別的な事を言うのが怖いのかもしれない。君は素直で良いね。」と笑っていた。だから僕は、「僕はブルーハーツと言う日本のバンドの歌を知った時に、そういうのはちゃんと分別出来る様になったんだ。」と言った。ルルが「何て曲だい?」と聞いたので、「青空と言う曲さ。歌ってあげようか?」と返した。すると意外にも彼はぜひ聞かせて欲しいと言って来たので、友達にギターを持って来させ、日本人同士で引き語りをした。拍手してるルルに訳した歌詞を書いて渡してあげると、彼は少し涙ぐんで、「素晴らしい曲だね。」と言ってくれた。そうさ、ブルーハーツの曲からは色んな事を教えてもらった。誰よりも解りやすい歌詞を誰にでもは書けない言葉で歌うバンド。阿久悠さん以来の作詞の天才と思っている二人が率いるバンド。言葉から入る僕にはたまらないバンドだ。彼らが人気があったのは、日本という国が良い時代だった事を象徴していたと今でも思っている。若い人達にもぜひ聞いてもらいたい。歌詞を読んでみてもらいたい。本当に飾らない言葉の持つ力の凄さが解ると思う。

 言葉は人を生かしも殺しもする。とても大切なものなんだとルルともよく話した。彼は今頃、フランスで映画を撮っているだろうか?差別は嫌いだと言っていた彼の事だ。きっと優しい映画を撮って、日傘を差して歩いているんじゃないかな?フランスでも青空を見るたびに、僕らの友情を思い出すと約束してくれた。僕もそうさ。生まれた所は違っても、人はすぐ友達になれる事を僕は知っている。頭の上に広がる青空は誰の物でもない。人は皆、この空の下で平等なのだ。僕はそれがとても嬉しいのです。

 

  ♪ 青空   /  THE BLUE HEARTS

 

ブラウン管の向こう側 カッコつけた騎兵隊が インディアンを 撃ち倒した

ピカピカに光った銃で できれば僕の憂鬱を 撃ち倒してくれれば良かったのに

神様にワイロを贈り 天国へのパスポートを ねだるなんて 本気なのか?

誠実さのかけらもなく 笑っている奴がいるよ 隠している その手を見せてみろよ

生まれた所や 皮膚や目の色で いったいこの僕の 何がわかるというのだろう

運転手さんそのバスに 僕も乗っけてくれないか 行き先なら どこでもいい

こんなはずじゃなかっただろ? 歴史が僕を問い詰める 

まぶしいほど 青い空の真下で

 

生まれた所や 皮膚や目の色で いったいこの僕の 何がわかるというのだろう

運転手さんそのバスに 僕も乗っけてくれないか 行き先なら どこでもいい

こんなはずじゃなかっただろ? 歴史が僕を問い詰める 

まぶしいほど 青い空の真下で